【連載】これぞうまい店

Vol.02

イタリアン「トラットリア パッパ」

13.11.14

PHOTO
パッパのオーナーシェフ 松本喜宏さん(1964年生まれ)

大阪市西区のイタリアン「トラットリア パッパ」です。

「シェフのキャラクターが立っている」

この写真を一目、ご覧になれば、直感できるように、松本シェフは「テレビ的」です。
世間が求める、キャラクターとは、

見た目が明るい

テンションが髙い

しゃべりがうまい

世阿弥的にいうと「花がある」。
俳優、タレント、お笑い芸人、文化人、学者、スポーツ選手、素人さんに対して、常に「花のある人」を求められています。シェフに対してもしかり。

松本シェフ曰く、お客さんからの一番の誉め言葉は、

「この店来て、元気になったわ!」

この言葉に松本シェフの「花」の秘密が隠されていることに気がつきました。
「お客さんに元気になってもらうためには、まず、自分が毎日、元気でいないといけないと思うんです。そのために、店の環境を整えました。」
いつも元気であることが、シェフの「花」をつくる1つの要素であることは、間違いありません。

PHOTO

 

では、その環境とは?

「元気になれる店」

お店を、シェフ自身も元気になるし、お客さんも「元気になる場」にするために、様々な演出をされています。

BGMのレベルを高くする。

時には客から、音楽がうるさい、といわれることもあるそうですが、松本シェフの好きなアップテンポの曲を、かなり大きめに鳴らしています。すると、客も従業員も。話すとき、声のトーンを上げないと聞こえません。元気だから、声が大きいのではなく、声が大きいから元気になる。ということもありますね。

フルオープンキッチンにする

裏厨房のない、フルオープンキッチンにすることで、料理工程自体が、下ごしらえから、エンターテイメントになりますし、シェフも、従業員の人たちも、見られているということで、テンションが上がります。ほとんどの割烹には、裏厨房がありますし、すべての飲食業界で、フルオープンキッチンは珍しいのではないでしょうか…。
(テレビ取材的にも、オープンキッチンは撮影しやすいという、副次的なメリットもあります…。)

元気になるデザインを選ぶ

松本シェフはポップアートが好きで、色んなアーテイストの友人をお持ちですが、店内には、TALAさんというアーティストの作品があちこちに置かれています。松本さんが、デザインを選ぶポイントは、それを見て、心が浮き浮きするかどうか…。

PHOTO 予約席の前には、TALAさん作の鶏?に「ようこそ、本郷さん」とカードが。
TALAさんの作品 http://www.tala16.jp/carrot-2-2.html

デザインといえば、
「実は、自分の髪型も、テンションが上がるような、尖った形にしています」。
松本シェフ、以前は一枚目の写真のポスターのように、金髪でした。
眼鏡も、私服も、派手です。
では、

プロデューサー的観点から見た、飲食店大繁盛の法則

を考察してみましょう。

「海鮮専門イタリアン」

この店では、「セコンド・ピアット(メイン)は、肉と魚、どちらにされますか?」「うーん。肉料理にしようかな。オッソ・ブーコ(仔牛の骨付きスネ肉の煮込み)ある?」という会話は成立しません。なぜなら、トラットリア・パッパには、前菜や、パスタに使う生ハム、ベーコン以外の、牛、豚、鶏などの「肉」料理がないからです。魚介類料理に特化したイタリアンなのです。

PHOTO パッパのスペシャリテ「魚介のカルパッチョ」

PHOTO 秋刀魚の塩焼き pappa風

2002年2月2日のオープン(2並びのオープン日も洒落ていますが)から、1年半くらいは、普通に肉料理も出していて、いまいち店も流行らなかったそうです。もともと魚が好きで、肉がそれほど好きでなかったのと、なかなかこれぞという肉が、仕入れられなかったので、
「このまま行けば、つぶれるかも知れない。どうせなら、好きな魚料理だけに特化したイタリアンで勝負しよう」と思い立ったそうです。
さらに、「他店との差別化」ができているのは、

鮨店のカウンターのように、魚介類のネタケースがある。

PHOTO

そして、

「その魚」で注文でき、料理法を指定できる。

16年間、毎日通い続けている中央市場で仕入れた、その日の魚。
たとえば、金目鯛、天然鯛、カツオ、サバ、秋刀魚、水うに、アワビ、ホッキ貝、ツブ貝などが並んでいるので、「その魚、半分はカルパッチョに、半分は、焼いて、いややっぱり、パスタにあわせて…」という注文ができるのです。客の立場に立てば、魚を見て、選んで、調理法を考えて、注文する。という一連のアクションをすることになります。これは、楽しい。いわば、注文のエンターテイメント化です。まさに割烹イタリアンです。最近、漁師風海鮮居酒屋が流行っていますが、まるごと一匹、魚を指名できるのは、実際、「面白い」のです。

ほかにも繁盛の秘密があります。

「完璧な顧客別、メニューリストを作っている」

コースを頼んだ客に、その日何を出したか、ずっと綿密に記録されています。先日、松本シェフと話していて、驚きました。
「本郷さんには、今まで80種類くらいのパスタを出していますよ。うちのスペシャリテのウニのパスタと、本郷さんが好きなペペロンチーノ以外、同じパスタは、出したことがないです。ウニのパスタも、日々進化させているので、実は毎回違うのですが…」(僕の場合、1つのコースに、パスタを3種類入れて下さい…と頼むことが多いのです)

つまり、
日々仕入れる食材×ソース×パスタ×松本シェフの引出し=無限
この公式は、前菜にもメインディッシュにもあてはまります。新鮮なのは、魚だけではないのです。コースメニューが、常に新鮮なのです。
「常連のお客さんが、1週間に2回いらしても、1年ぶりに同じ月にいらしても、同じ料理は、出したくない。」

何を食べたかリストによる、コース料理の顧客別カスタマイズ。

これは、サプライズです。

PHOTO スペシャリテの「ウニのパスタ」。ウニの種類、
他の具とのあわせ方、味つけ、パスタの種類、など日々違うパスタとなる。
たとえば、
「冷製と情熱のあいだ ウニのパスタ12ヶ月」など、すぐに企画になります。

さらに、パスタの話を続ければ、取材のポイントとなることがあります。

「パスタを茹でるときに、塩を入れない」

パスタは、「湯の量に対して1パーセントの塩を入れて茹でる」のが定番ですが、松本シェフは、塩を入れません。
「パスタは、水と油と麺のバランスが最大のポイントであり、そのバランスをとるときに、既にパスタに塩味がついていると、邪魔になる。塩分量は、合わせる具材の塩分含有量や旨味によって、変えるべきで、からめるソースの方で調節したいのです。」
これまた、サプライズです。「既成概念を覆した」「常識はずれ」です

ちなみに、家でパスタは作るときは、真剣勝負ではないので、塩を入れるそうです。

PHOTO パスタだけでコースを頼むこともあります。
前菜から、メインまで、5~6種類のパスタで構成されます。ちょっと
シェフの手間がかかるので、ここだけの話です。

きわだったキャラクター、ショーケースのある魚介専門割烹イタリアン、無限のパスタ、レシピ…これだけでも話題になり、口コミを呼びますが、松本さんは、パーソナルメディアを使って、情報発信を続けられています。

ブログの活用

その日仕入れた、オススメの魚は、ブログに即アップされています。
http://blog.livedoor.jp/trattoriapappa/
「今日のおすすめは、これ」と写真入りで見せられると、「あ、ズワイガニが入っている」「秋刀魚が旨そう」と、「今、まさに、リアルタイム」のワクワク感のようなものを感じます。
これは、動きのないホームページにくらべて、対マスコミにも効果があります。何より、早い、1次情報の発信だからです。「仕入れた食材」は、店の名刺代わりです。
マスコミの人間は、過去完了形のホームページより、現在進行形のブログに関心が高いのです。
最近は、ブログーfacebook ―ツイッターと連動されいています。とくに、facebookのヘビーユーザーには、雑誌、テレビなどマスコミの人間が多くて、情報発信と受信の大きなメディアになってきています。これからの飲食店経営には、facebookは、必須だと思います。

「トラットリア・パッパ」のまとめ

魚料理に特化した、客が元気になれる、割烹イタリアンをめざし、「シェフ自身いつも元気でいられる」店作りをしている。その元気が、結果として、自身のキャラクターを際立たせ、魅力となっている。そして、パーソナルメディアの活用に積極的である。

RESTAURANT INFO

イタリアン「トラットリア パッパ」

〒550-0013 大阪府大阪市西区新町2丁目3−9
06-6536-4188
定休日 日曜日と第3月曜日
カウンター、テーブル席全30席
11:30~14:00  17:30~21:00(ラストオーダー)
夜の客単価 5000くらい~
夜は、アラカルト、5500円と10000円のお任せコースもあり
http://www.pappa.jp/